atusi について

三重県四日市市で小さな木工所を営んでいます。

色漆を使ってみた 2 

一応仕事をしながら、色漆でも遊んでいます。季節柄放っておいても乾くので楽です。もっともこちらは仕事に取り入れたいと思っているので、もっぱら遊びというわけでもありません。

さて、いいかっこしていてもしょうがないので、恥をさらします。下の画像が、布着せ→錆付け→錆固め、その間研ぎを入れる「本堅地」という事をやってみて、その上に1回黒の色漆を塗った状態です。

色漆1回目

色漆1回目、この角度からはアラは目立ちませんが・・・

同じく1回目を別角度から。下地の荒れやゴミが目立つ。

同じく1回目を別角度から。下地の荒れやゴミが目立つ。

これを先週、名古屋の小谷漆店に行った折に持参して見てもらいました。そこでダメだしされた中身はだいたい以下の通り

  • まず、下地が平滑に研げていない。
  • ゴミは、漆自体、刷毛、定盤、部屋、室、あらゆる所から混入・付着する。それなりに準備が必要。
  • 刷毛で塗上げるのは、上記準備とともに相応の熟練が必要
  • これでも何回か研いで塗り重ねて、最後は呂色磨きで仕上げればなんとかサマになるじゃないか

それで、その場でクリスタル砥石(600と1500番)などを購入。3回ほど研ぎと塗りを繰り返した状態が下です。最後1500のクリスタル砥石を当てています。まだ下地の繊維の模様が部分的に薄く現れていたり、刷毛ムラのようなものが残っていたりします。下地(下拵え)で横着したものは、後の作業では取り返すことは出来ないというのは、どんな仕事でも一緒ですね。作例のような什器の木口の保護、端ばめの代わりという実用上なら、この程度でも良いのかもしれませんが、やはりどうせならもう少し上手になりたい。意匠としても取り入れ制作の幅を広げたいという最初の意図からいっても、もう少し頑張りたいと思っています。

何度か塗り重ねて砥石で磨いてみた

何度か塗り重ねて砥石で磨いてみた

木口の色漆を塗ったナラ刳り物

木口の色漆を塗ったナラ刳り物

 

乾漆をやってみる 2 なんとか型を抜いたぞ

糊漆で、麻布を貼り重ねること5枚になり型を抜くことにしました。生漆で生地とくに切りそろえたヘリ(エッジ)の部分を固めて1日置きました。型の木を湿らすくらいでは無理なので、バケツに水をいれて、その中に半日浸しておきました。 なんとかヘリから続飯が溶け出したので、そこに油絵用のペインティングナイフを差し込んで、少し剥がれたらまた水に浸してを繰り返し、最後は力技で・・・。

無理から剥ぎとったが、なんとか形は保っている

無理から剥ぎとったが、なんとか形は保っている

なんとか抜けましたし、形もそれなりに保っていますが、型との接着面は和紙がこびり付いていたり、逆にその上の麻布が剥がれてしまっていたりで、ひどいことになっています。あとエッジの部分から肝心の麻が剥がれて分離しています。これはこれで、なんとか実用上使える形にまで補修してみるか、題材として教訓化するためにこのまま残しておくか悩んでみます。

内側はひどい状態になってしまった

内側はひどい状態になってしまった

モーツァルトの「ソナタ九番」


ジーパンで自転車をこぐモーツァルト見かけたソナタ九番の中

昨日の朝日歌壇に載った歌です。選者の馬場あき子さんによると中学生の作のようです。

モーツァルトのソナタ9番というと、最近は通し番号の順が少し変わって、昔8番イ短調のソナタと言っていたK310を指すようです。今の中学生が言うソナタ9番というとやはりそれなんでしょうね。我々の世代でモーツァルトのイ短調のソナタといえば、かのディヌ・リパッティが悪性リンパ腫で亡くなる直前のライブ録音の壮絶な・・・云々となるのですが、そうか、なんの先入観もない中学生が聞くとジーパンに自転車のモーツァルトが見えるのですね。うん、羨ましい。もし、旧9番のK311 の事だとしても、と思ってあらためて聞いてみました。それはそれで素直な楽しい連想だと思いました。

もうね、小林秀雄の『モオツァルト』なんて読まないほうが、普通に楽しく音楽を聞くことができると思います。

乾漆をやってみる 1

脱活乾漆というものをやっています。これはある型に糊漆を使って麻布などを貼り重ねていき、固まったところでその型を抜くという技法です。古くから仏像などもこの技法で作られています。人に聞いたり、ネットで情報集めたり、でも基本は我流になります。

今は、普通に小さな器などは発泡スチロールなどで型を作って、固まればそれを壊して抜くというやり方が多いようです。型を作るのも抜くのも簡単で、コストも手間も省けるという意味では合理的で、鋳物の木型も今はそうして作られているようです。でも、木工屋としては、どうも納得しかねるところもあるので、木で型を作ってみました。昨年末に下請け仕事で使ったメルクシパインの集成材の端材がたくさんあるので、それを使います。材は密だし柔らかく彫りやすいのではと思ったのですが、意外に粘っこく刃物のかかりが悪くやりにくかったです。

その型に、続飯(そくい・米粉を練った糊)でまず和紙を貼ります。後で漆が固まった時に水に浸して型を抜くためですが、漆屋はじめ何人かは抜けないのじゃないかとの事でしたが、まあやってみます。

木の型に続飯で和紙を貼る

木の型に続飯で和紙を貼る

その和紙の上から、麻布に糊漆をヘラで練りこんだものを貼っていきます。シワや糊溜り、空気の層が出来ないように手で抑えつけるように型になじませ、ヘリで折り返すようにします。貼っているうちに糊漆の粘度が高くなるので特にタッカーなど打たなくても止まります。逆にこの季節、糊漆の乾燥が速く素早く行う必要があります。乾くのを待って、同様に貼り重ねていきます。下の写真は麻布3枚目を貼り終わった状態です。1日2回でもやれそうですが、あわてないことにします。

糊漆で麻布を貼り重ねる

糊漆で麻布を貼り重ねる

色漆を使ってみた

漆定盤を使った試作というか遊びが一応形になりました。

布着せも色漆も初めての試みだったのですが、このように木口の処理に使うことで、仕事の可能性が広がりそうです。次は、乾漆のまねごとをやります。

拭漆の器の木口に布着せをして色漆

拭漆の器の木口に布着せをして色漆

東電原発事故についての映画3本

最近、東京電力福島第一原子力発電所事故に関わる映画を3本観ました。

A2-B-C
いきもののきろく 
あいときぼうのまち 

いずれも上演初日に観ました。おかげで各映画の監督やスタッフ・出演者の舞台挨拶やトーク・質疑を聞くことが出来ました。映画自体の紹介は、リンクの各映画の公式サイトや予告編を見てもらうとして、ここでは、舞台挨拶などで語られたことについてメモをもとに紹介します。

「A2-B-C」 イアン・トーマス・アッシュ監督の話

上映会で挨拶するイアン・トーマス・アッシュ監督

上映会で挨拶するイアン・トーマス・アッシュ監督

  • この映画は、海外から上映を始めた。日本での上映もそれに続いて行なっているが、まだこの映画の舞台になっている福島県伊達市では上映できていない。
  • 映画に登場してくれたお母さんたちの立場が地元では微妙になってきている。1年半が経って、この映画で話してくれたようなことは既に話せなくなってきている。
  • 復興バブルというものが確かにあって、お母さんたちのように子どもを守るために、当たり前の疑問を持つこと自体が、バブルに邪魔になるというのが、自治体、企業、住民の間にすでに広がっている。
  • 国や東電は原発の距離で線引きをして住民たちを分断している。わずかなお金を取り合いさせることで住民同士をケンカさせている。敵は東電であり、国なのだ。
  • 安全だと思いたい人は話したがらない。
  • どこかいつかと比較して、放射線量が低い、下がったと思いたがっている。

「あいときぼうのまち」管乃監督・脚本井上さんの話

挨拶する「あいときぼうのまち」のスタッフ・出演者の皆さん

挨拶する「あいときぼうのまち」のスタッフ・出演者の皆さん

  • 「東電」という名を映画で出したことにより、メディアから一斉に黙殺されている。
  • 現在、保証の問題をめぐって東電側の弁護士から、どうぞ訴訟でもして下さいというような対応も出てきている。
  • 福島県では、いわき市で先行上映をした。作ってくれてありがとうと言われた。

この件、続けます。

漆定盤使っています

先日作った漆定盤(→「山に樹を見に行く3 ミズメ」)、さっそく使っています。素材はここで紹介したナラの刳り物です。

米粉を炊いて練った続飯(そくい)に生漆を混ぜて糊漆を作る

糊漆を作る

糊漆を作る

糊漆で木口に寒冷紗を貼る(布着せ)

布着せ

布着せ

漆錆を付ける(錆付け)

錆付け

錆付け

これを研いで生漆で固める(錆固め)

錆固め

錆固め

色漆(黒)を塗ってみた。下地の荒れがモロに出るのは、ウレタンなどと一緒だと納得。写真が悪くよく分からず申し訳ありません。

色漆を塗ってみた

色漆を塗ってみた

 

「山」に樹を見に行く 4 サワグルミ

サワグルミやオニグルミなどのクルミの仲間は、山の沢筋に多い木ですが、平地の河川敷や中洲などでもよく見られます。かつて住んでいた京都の桂川の中洲にはオニグルミが何ヶ所か自生しておりました。講座で桑名に自転車で通う途中の、東海道の朝明川にかかる橋のたもとの河川敷にも2本のクルミの木がありました。確認はしてないのですが、残念ながらサワグルミだと思います。残念というのは、実を採って食することが出来ないという意味です。オニグルミとサワグルミは葉とか幹だけでは、なかなか判別しにくいのですが、夏に青く丸い実がつけばオニグルミだという事で良いでしょう。細かい事を言えば、小葉の縁に細かい鋸歯があるのがサワグルミということなど色々判別法はあるようです。

サワグルミの群落 このようにまとまって生えているのは珍しいように思います。 GXR A12 28mm

サワグルミの群落
このようにまとまって生えているのは珍しいように思います。
GXR A12 28mm

クルミの類は、先駆樹種の一つ、それもかなり有力なもののようです。沢筋や河川の中や際に多いというのも増水などで流された後に真っ先に侵入してくる樹種ということなのかもしれません。それと、木としての個体の寿命は100年とも150年とも言われています。サワグルミなど、シオジと間違えるような通直なけっこうな樹高のものも見ることもあるので、成長はその分早いのでしょう。それでやがては他の樹種に遷移されていく。クルミの単相林とか大きな群落というのは見たことがありません。

こちらはオニグルミ(たぶん?) GXR A12 50mm

こちらはオニグルミ(たぶん?)
GXR A12 50mm

木工材料としてのクルミ類の位置づけは、

ウォールナット > オニグルミ > サワグルミ

という感じでしょうか。色目(色の濃さ)、重さ、固さも上記の順になります。私は、この仕事を始めた最初の頃、たまたま手に入れたサワグルミを使って小さな棚を作りました。その端材で左勝手の繰り小刀の鞘を作りましたが、今手元にあるのは、それくらいです。妙な固定観念に取りつかれて、その白く軽く柔らかい、穏やかな木目の材を、安物の下駄の材料とか、当時フラッシュの心材として、やはり安く出回っていたファルカタみたいなものくらいに思っていました。ちなみに、そのファルカタも今やカービングなどに良く使われる高級材になりました。

でも、今でもそこそこ資源が残っていそうなこと、成長が速く更新資源としても管理できそうなこと、白く柔らかく、大人しい木理で応用範囲が広そうなこと、など家具木工材料として実は有用なのではと考えています。