私がこの仕事をはじめた20年ほど前は、抽斗などの内側の側板とか先板の材料といえばカツラが定番とされていました。それで、当然のようにその材料としてカツラを求めましたが、もうその頃は良質のカツラは手に入りにくくなっていました。一度ある偶然で古い柾目の良い材を少量手に入れることが出来たのですが、後はいわゆる性の悪い板目の材ばかりでした。反りや歪みも多く、歩留まりは悪い、木づくりなどの加工も手間がかかる、加工後のくるいも生じやすいなど、良い所はありません。
その頃、インドネシアから入ってきていたアガチスという材が良材が多く、4メートルものの柾目の板がバンドル買いなら立米単価で10万円を切る値段で手に入りました。軽くて加工性もよく、通直で素直な木目の材は、ほとんど抽斗の材として理想的と言ってもよく、当時出回っていたカツラに劣る点はなにもないと思いました。もう、その当時でも木材としてのカツラは枯渇してしまっていたのだと思います。
ちなみに、母親の遺品に嫁入り道具として持ってきたと思われる立派な裁ち台があります。カツラの柾目の一枚板で長さ2,100ミリ、幅500ミリ、厚み36ミリあります。ガキの頃、母親がそれを使って浴衣を縫ったり、あるいは半襟を着けたりしていたのを見たような記憶がありますが、その後はずっと実家の屋根裏に放置されていました。そのせいか少しだけプロペラ状にねじれていますが、大きな反りや木口の割れもなく吸付きさんで嵌められた畳摺りの着いた板足もしっかりしています。少なくとも60年ほど前には、こうした良質のカツラが多少は値がはったかもしれませんが実用品の材として使われていたのです。
最近では、そのアガチスも価格も高騰し、材の質も以前よりは随分悪くなってきました。そこで中国産のキリの集成材などを使っていました。廉価ですが、それなりの物という感じでお薦めできるものではありません。15ミリ厚が定番なのですが、もともと細びきというか定尺を割っていた材が、シーズニングをしている間に12ミリ程になっていた事がありました。
今は、工房齋の齋田さんを通して廃業する桐箱屋さんから譲って頂いた枯れ切ったキリの端材(が、良材です)があるので、しばらくはそれで間に合いそうです。
カツラの巨木
RICOH GXR A16
さて、先日近江高島に所用があって出向いたのですが、その時間待ちに山に寄って来ました。そこで、久しぶりに見てきたカツラの巨木です。カツラの巨木というのは、比較的たくさん全国に残されているようですが、いずれもこうしたヒコバエというか根本から分枝したような木が多いように思います。逆に言うと、すっとした木は木材として伐り尽くされてしまったということなんでしょうか。
同じカツラ。モデルは身長187センチ。
RICOH GXR A16
上の写真は、いつものGXRにA16というズームレンズユニットを付けたものです。倒木の上に置いてセルフタイマーで撮ったのですが、ミラーレス・レンズシャッターだからか、いい加減に置いただけですが特にぶれていません。