第63回 正倉院展

今年も、行きました。例年、混雑を避けて平日の午後から入場するのですが、今年は例年になく入場者が少なかったように思います。入場の列はありましたが、とくに待つというでもなくすっと流れて入れました。私が行った日がたまたまだったのかもしれませんが、不景気とか震災自粛の影響なのでしょうか。

金銀鈿荘唐大刀

今回の出陳の目玉は、金銀鈿荘唐大刀(きんぎんでんそうのからたち)でした。あらためて図録で見ると、装飾の細部の緻密さに感嘆させられます。そうしたものばかりに目がいってしまうとブルーノ・タウトの言ういかもの的な代物に思われるかもしれません。しかし、実物を目にすると一振りの大刀としての落ち着いた上品な佇まいを持っています。不思議なものです。(つか)には、鮫皮(エイ皮)が使ってあり、これなども下手をすると限りなく下品になるように思うのですが、蒔絵や銀、玉の他の装飾を引き締める別の質感をもったアクセントになっている様でもあり、よく吟味されているなあと感心させられます。

白木三鈷箱

白木三鈷箱

今回の出陳では、木工品それも実用に賦されたものがいくつかあり、我々木工屋にとっては楽しい。図録からいくつか載せておきます。そのうち、素木三鈷箱(しらきさんこのはこ)は、同時に出陳されている鉄三鈷(てつのさんこ)を収納するための箱です。2本のダボによる会わせ蓋となっています。その形状は、鉄三鈷のおどろおどろしい形と正反対に丸みを帯びた二つの花をあしらったような穏やかなものです。材はサクラだそうですが、鉄三鈷を納める部分は、きちんとその形状に合わせてエッジを効かせて見事に彫り上げられています。こういう仕事を見ると嬉しくなります。

柿厨子

柿厨子(かきのずし)


みつだえくもうさぎがたせきしつのひつ

密陀絵雲兎形赤漆櫃(みつだえくもうさぎがたせきしつのひつ)

そのほか、木工品だけでも複数の()や箱が出陳されています。それに復元された織物や漆皮の箱などがオリジナルのものと同時に見ることができて、これも面白い。などなど、いつもながら実用の家具や什器の制作に追われる身には心洗われるような展示です。会期は、11月14日(月)までです。