以前、youtubeの動画は貼らないと書きましたが、この時期の気休めとして容赦ください。宣伝もありませんし。それにプリペアド・ピアノがどういうものか知るにはやはり視覚的要素(動画)があったほうがいいですね。
ジョン・ケージの初期のプリペアド・ピアノのための音楽です。もうこれくらいになると現代音楽と言うより古典ですよね。作曲されたのが1942年となっています。太平洋では、ミッドウェーで日本の連合艦隊が壊滅させられ、年末にはスターリングラードでドイツ軍が大敗します。戦争の流れの変わった年であったと今なら簡単に言ってしまいますが、当時アメリカにいたケージは何を思ってこんな標題をつけたのでしょう。” shall bear again”というのが、お気楽な「再生」とか「再建」といった意味でないことは曲想から感じられます。同じ時期に”In the Name of the Holocaust”と題された曲もあります。題名の詮索は別として、こちらはピアノの弦を爪弾いたり鍵盤を拳や肘で叩いたりとよりそれらしい奏法になっています。これも探せば動画がネットにあります。
鍵盤を拳で叩いたり弦を爪弾いたりあるいは弦の上に何かを載せたり挟んだりというのは、いかにも子どもがおもちゃのピアノでやりそうなことです。私も従姉妹の家にあったおもちゃのピアノでそうしたいたずらをした記憶があります。ケージの一連のプリペアド・ピアノの作品もそうしたことの延長上にあると思われますが、実用的理由(”practical reasns”)もあったようです。
後で紹介するMDGレーベルのCDの解説には以下のようにあります(意訳)。
ケージは大半のプリペアド・ピアノの曲をダンスパフォーマンス用に書いた。彼は1940年代にはたくさんのダンスグループ(とりわけマース・カニングハム)のピアノ伴奏者として旅した。打楽器のアンサンブルを連れて行くより、バックに消しゴムやボルトや木片や竹を詰め込む方がはるかに簡単で安上がりだった。どんな小さな劇場でも小さなグランドピアノくらいは置いてあった。
ケージのこの曲、あるいはプリペアド・ピアノのディスクもLP時代からいろいろあります。私の持っているものの紹介です。
- JOHN CAGE Complete Piano Music : Steffen Schleiermacher
新しいMDGレーベルのケージのピアノ曲全集・10巻18枚組。演奏者は、上の動画の Steffen Schleiermacher。この人は同じMDGレーベルのハンス・アイスラー歌曲集全4巻の伴奏もしている。すでに絶版だが、このレーベルの録音は妙な加工をせず非常に素直でかつ鮮明で聞きやすい。プリペアド・ピアノの面白さを実感するにもお奨め。分売もされていますがその多くは在庫切れとなっています。
- John Cage Complete music for prepared pian : Giancarlo Simoncci
こちらは、格安レーベル・Brilliant Classicsのプリペアド・ピアノのための音楽を集めたもの。3枚組。昔Naxosレーベルで出ていたもの。中古だと1,000円程度で買える。