雨続きで、相変わらず木工屋にとっては煩わしい状況ですが、ルーティンワークとも言える作業をしています。板のひき割りと接ぎです。寸一(34mm)厚のクリの板を縦に割って、幅方向に接いで700✕410✕12ミリの板4枚・他を作りました。板接ぎにはいくつかの流儀があるようですが、細かい技術的な問題を別にして私が気をつけている点を書きます。
傷、シラタなどを外す
あらためて書くまでもないことですが、希少な一枚板の場合は、干割れとか木口割れ、あるいは死に節などの傷でも補修して使う場合があります。接ぎ板の場合は、あえてそうした材を使う必要はありません。見えないあるいは見えにくい部材として使えば良いのです。
木表を揃える
木裏使いをしない私にとっては、これは、たいへん重要な点です。アマチュア向けの木工の入門書などに板接ぎの場合、木表と木裏を交互に並べるべき、とか書いてあるのもありました。反りを相殺する云々。まあ、いかにもアマチュア「木工家」の思いつきそうな屁理屈です。そんな生乾きの材料を反り止めも施さずに使う方が問題です。
なぜ木裏使いがダメなのかは、木を扱っていれば誰でも分かるイロハの問題です。若い人には、タマネギの切断面を例に説明したりしてきました。もう一枚、松の画像を載せておきます。こうした「めくれ」と呼ばれる現象は松や杉などの針葉樹に顕著に現れます。大工職は少し前までは当たり前に松板を削り廊下を貼っていました。そのため今でも木裏・木表に関してはシビアに考えています。こうしためくれは、広葉樹でも起きます。私の20年足らずの経験でも、タモとそれから散孔材であるクルミでやらかしてしまったことがあります。いずれも店舗のテーブルの天板でしたが、めくれのトゲでお客さんと店員の方に怪我をさせてしまいました。店舗の場合は空調も含めた使用環境が無垢の木にとっては極めて厳しいので、早々とこうした問題が現れただけで、一般家庭でも遅かれ早かれ同様の問題は出てくると思います。
おまけ → 看板は必ず木表を前に!
もうひとつ、ついで書いておくと、看板は必ず木表を前にします。これは親方から教わりました。理屈ではなくそうしなければならない決まり事なのだそうです。あえてわけを詮索すると、お客さんに尻を向けるのは失礼とか表の顔を隠さずきちんと晒すとか、商いの姿勢に関わる縁起かもしれません。あるいは長い期間、風雨に曝されることが前提なので、上の図のようなめくれが起きるのをさけるという実用上の問題でしょうか。街に遺る古い木の看板を見ると必ず木表を前にしてあります。その禁をあえて破る積極的な理屈がない限り守ったほうが良いと思います。
見た目も大切に
特に、テーブルや机の天板、箱物や建具類の鏡板などでは見た目も大切な要素です。往々にして板目の材を端から並べてはいでいくと、ごちゃごちゃしたうるさい物になりがちです。無難なのは、中央部に板目の材を置いて、その両側に柾目の材を接いでいくやり方です。これですと実際の幅広の板の木目に近いものになります。私は昔から中杢と言われてきたそうした木目が上品で落ち着いた雰囲気で好きです。そのために、メインとして使う材は柾目と板目の材をそれぞれストックしておく必要があります。
私がメインで使ってきたクリは、流通している材の多くがダラ挽きと呼ばれる丸太を板目方向に順送りに挽いていく製材方法で板にされたもので、しかも耳つき材です。したがって、板接ぎの場合は苦労してきました。前に書いた岸和田で購入した材は、きちんと板目・柾目を考えて製材してあり、しかも不用な耳を断ってあります。したがって、画像のようなはぎ板が比較的簡単に作れました。単価は従来のものの丁度倍ほどしましたが、歩留まりも含めて十分その値打ちはありました。
ちなみに上の画像もクリックすると拡大します。どこで接いであるか探してみてください。