鎬鑿は、蟻型などの鋭角な穴や欠き取りの仕上げに使うものです。したがって、小口と呼ばれる刃の側面の部分は、用途から言って極小であることが望ましい。私の持っている鎬鑿を並べてみる。右から、2分(6ミリ)追入、同4分、5分突き鑿、6分追入(元は突き?今回購入分)。今回買った古道具以外は、20年前、訓練校在学中に購入した比較的新しい(?)道具になります。
これを別の角度から見ると、新しいものは小口の面が大きくとってある事が分かります。奥の2本の追入は、叩いて使うものですから、仕方がないとも思えますが、手前から2本目の突き鑿の小口の面もいかにもゴツイ。これをさらに古道具と比較してみます。
古道具の方が、鎬鑿の本来の用途から見て、理にかなった姿をしているのは明らかでしょう。テキ屋のブルーシートの上に乱雑に置かれていながら、その姿に惹かれた理由も、そこにあったのだと思います。また、別の機会に記事にしたいと思いますが、今、市場に出回っている木工の道具の多くは、本来の用途から外れた妙な形になっているように思います。鉋の身は、鋼が厚く裏の隙が深い。全体に重く鈍重な姿で、研ぎにくく裏出しもやりにくい。逆に叩いて使うべき追入鑿は、妙に華奢で、叩いた力が材に伝わっていかないようなまどろっこしさを感じます。
ある問屋の親方曰く、それは、道具屋や鍛冶屋のせいではなくて、お前らが悪い。道具を使う職人が、本来的な使い方をしなくなった。そして研ぎも含めた技量がどうしようもなく落ちたからだ云々。要するに、こうした鑿の場合、小口を薄くしてしまうと、まともに耳を立てて研げない。ましてグラインダーなど当てようものなら、薄い小口の刃先の先端から、たちまち焼きが入ってしまう。ボロボロ刃が毀れて、クレーム扱いになってしまうと言うことでしょう。鉋の場合も、面倒な裏出しなどせずに、研ぎ減らして行くので、裏が薄いと直ぐにベタ裏にしてしまい、あげく鋼がなくなってしまう。
そう言われると返す言葉がない。私が、店晒しや中古の古い道具を探して、それをメインに使っているのも道具本来の形をしたものを使いたいからです。