以前の職場

大阪南港の中田木材工業に、買ったまま預かってもらっていた材木を引き取りに行く。何年か前に倒産した北海道のE林業の在庫品で、今頃はもうなかなか見られないような良質のクルミ材だ。2年以上も前に買って、昨年ある店舗の什器と内装用に使って残りはそのまま預かってもらっていた。この業界はそうした面でおおらかなところがあって、ずぼらな性格の私には助かる。

以前勤めていた会社が、南港にほど近く道中少し道をそれた所にある。昼一番の約束に多少時間があったので寄ってみる。スケールと呼ばれた酸化鉄によって赤茶けた門やスレート拭きの建屋の姿はどこにもなく、大きく小ぎれいな物流倉庫のようなものになっていた。私は、別にその会社に何の思い入れもないがその変貌振りに少し驚く。それに一応製鋼から圧延、それに出荷のためのストックヤードと加工施設のあった製造業の現場がこんな無機的で大きな集配場のようなものになったのを見るのはやはり寂しい。

それと、私が辞めてからこの会社ではいずれも製鋼の炉前で2件の労災事故があり、それぞれいずれも20代の若い社員が亡くなっている。私が辞めるときには、もう会社はその将来は展望出来ない状態であった。それで結局こうなるのであれば、もう少し早く少なくとも旧式の炉で若い現場労働者をむごたらしく死なせる前に稼働を停止するすべはなかったのかと改めて思った。たしかに小さな会社といっても下請け含めて300人の雇用を、どこかに軟着陸させるのはたいへんなことであったろう。だが、そんなことは人一人の命に代えられるものではないと今なら言うことが出来る。私自身が、この会社では労災でかなりひどい怪我をしている。運良くこの通り生きているし、後遺障害も残っていないが、その意味で他人事ではなかった。

旧国光製鋼跡