拭漆2 錆着け

木地固めが終わると、導管の大きな環孔材の場合は、それを埋めるために錆着けをします。錆(漆錆)というのは、固く練った砥粉にそれとほぼ同量の生漆を混ぜて、またよく練って作ります。それを、画像のようにヘラをつかって導管に摺りこむようにして着けていきます。小さなものになら、ボロを丸めたタンポで擦り込めばよいでしょうが、ある程度の大きさのあるものは、ヘラを使ったほうが良いと思います。その理由は下に書きます。

2寸のヘラを使っての錆着け

2寸のヘラを使っての錆着け

漆というのは、乾燥(硬化)の難しい素材で、それがかぶれの問題と並んで使用をためらわせる理由になっています。しかし、この漆錆の場合は、練った砥粉の水分と反応するためか、刷り込んでいる最中から、どんどん粘度が上がってきます。タンポでゆっくり刷り込んでいると、はじめに施した部分が硬化していきます。材の表面に不必要に残った部分や、むらになった部分をあらためて拭き取ろうとすると、かなり力を入れないときれいになりません。それに摺り込むタンポがはやく固まってしまい、その都度交換する事になり漆をその分無駄にしてしまいます。

ですから、材に合った比較的大きなヘラを使って、さっと摺り込むと作業としては楽で、合理的です。一度、ある塗師の人の錆付け作業を見学させてもらった事があるのですが、素早く力強く、グイグイ摺りこむ感じで、それでムラなくはみ出しもごくわずかで、それもさっと修正しながら仕上げてしまいます。錆付けは、本堅地を含め塗りの下地作りの基本作業になるので、これくらいの速度と効率でやれて当たり前という事なんでしょう。そういう塗師の人のマネはとても出来ないにしても、この作業はヘラを使うべきだと思います。

錆着け1回目の終わったクリ板。

錆着け1回目の終わったクリ板。

完全に導管を埋めるには、この状態で出来れば2〜3日置いて錆の痩せを見て、さらに錆を重ねます。2回行うとかなり良い感じで埋まります。塗装の強度や汚れの付着しにくさとかを考えると2回くらいはやった方が良いかもしれませんが、導管の凹みをある程度残した方が木目が映えて良いという選択もあります。このあたりは、使う材や用途、それに使う人の感覚によってそれぞれだと思います。

拭漆1 柿渋下地

クリの薄板(6ミリ厚)、420✕360ミリが16枚。框で組む棚の側板になる。仕上げは拭漆とするが、その下地として柿渋を塗る。木地固めというより吸い込み止めになる。この16枚の板の裏表で表面積は4.8平米(平方メートル)となる。三六合板3枚分だ。これを、クリのように中程度の密度の散孔材に、テレピン油で2倍ほどに希釈した生漆を塗布するとしても500gでは足りないだろう。漆を充分に染み込ませて木地を固めるのが、本来のやり方かもしれないが、いかにももったいない。経済的にという意味ももちろんあるが、貴重な漆の使い方としてもどうかと最近は考えている。この点については、あとで触れたい。

クリの薄板に柿渋を塗布する。

クリの薄板に柿渋を塗布する。

それに、渋自体も、完全に硬化すると撥水性、防腐性を伴った強固な塗膜を作る。その意味では、同じ自然塗料として漆にも負けていないと思う。他に、漆の下地として膠と砥粉を使った半田地、ウレタンなどの化学塗料を使ったものがあるようだ。仏壇などは、後者が今は主流になっているらしい。私も一度だけ、ウレタンのサンディング・シーラーで下地を作って拭漆をしたことがあったが、塗膜が強すぎて漆が染み込まず、拭漆の良さがなくなってしまうと思った。塗りの下地としては良いのかもしれない。

タローシリーズ その1

前に紹介した鉄のアングルは、画像のような使い方をします。テーブルの天板を裏返して加工しているところです。吸い付き桟に埋め込んで木ねじで固定。溶接された他のアングルに脚、ヌキなどをやはり木ねじで固定します。木の中に埋め込んでしまうことも可能ですが、今回は鉄で補強してあることをあえて明示的にしたいと思っています。

スチールのアングルを吸い付き桟に埋め込む

スチールのアングルを吸い付き桟に埋め込む

市販のオフィス家具のように、脚部全体をスチールで構成するという選択肢もあって、いつかそれもやってみたいとは思っています。ただ今回は、あくまでも基本は木のテーブルで、鉄で補強することでこんな形にすることも出来るという事をテーマにしています。

私の以前の仕事は鉄筋コンクリートに関係していました。鉄筋コンクリートはRC・Reinforced Concreteと略称されています。これにちなめばRW・Reinforced Woodシリーズとか呼ぼうかと考えましたが、そのまんま過ぎて面白くない。それに、日本で生まれ育った私はアルファベットを安易に、なにかそれがクールでスマートであるかように使うのが嫌いです。ハイブリッド(木と鉄)という言葉も、いまは自動車産業の営業戦略用語になっていていやだな。それなら、ハイブリッド→雑種→雑種犬・タロ−という連想で、タロー・シリーズというのはどうかなと考えています。

木の仕事展IN東海2014 まとめ3 栃厨子

栃厨子

栃厨子

今回展示した栃厨子とちのずしは、すべて古材および手持ちの材で作りました。その内訳は以下のようなものです。

天板
30年ほど前京都に住んでいた頃、大型ゴミの中から見つけた板
側板
解体された昭和初期の大阪の民家の床の間の書院の板
戸・背板
数年前に岐阜の櫻井銘木さんで別の仕事のため買った板の余り
地板
工房齋の齋田さんを通して頂いた古い桐材

天板

この板については、以前書きました(「トチの古材 その1 削り出してみた」)。今回展示した厨子も、そもそも去年制作して展示するつもりで段取りしたのでした。もともと27ミリあった板が、去年の段階でムラ取りと厚み出しをして22ミリになっていました。そのまま1年置いてもほとんど捻れも反りも生じず、枯れ切っていることもありますが、いわゆる性の良い板であったことが分かります。

栃厨子の天板。30年ほど保管した板。端嵌めを施す。

栃厨子の天板。30年ほど保管した板。端嵌めを施す。

昨年のあの記事を書いた段階では、木裏に残った蟻桟の溝を彫り直して文机か座卓の天板にしようと考えていたのですが、もとの構想通り厨子の天板としました。それにあたって蟻桟の溝を埋め木することも考えたのですが、溝を完全に消えるまで削り出して15ミリ厚ほどにするのが見た目も美しい。それでもったいない、申し訳ないと思いつつ断行しました。結局、27→22→15ミリと元の材の半分近くをプレーナー屑、鉋屑としてしまったことになります。ただし、長さ方向、幅方向にはほぼ元の大きさを使いきっています。これに、留の端嵌めを付けます。端嵌めは、反り止め・木口の割れ止めとしての効果は高いし、蟻桟のように不用な出っ張りを生じないという大きな利点があります。ただし、もとの板の収縮との関係で微妙な問題が残ります。私は、板の幅が1尺(約30センチ)程度までのものか、ほぼ枯れ切った板の場合に限り使っています。端嵌めは、戸板でも使っていますが、これは少々問題がありました。これは別に書きます。

樹種についての疑問は、今回も残りました。微妙なひねりや反りを取り、傷を消すために鉋をかけました。同時に、半世紀以上も経った枯れ切ったトチ(側板)、櫻井さんの10年程のトチ(扉、背板)も削ります。トチはもともと柔らかい材ですが、これが枯れて古材となると固く締まってきます。櫻井さんの材でもかなり固くなっています。ところが、この少なくとも私の手元だけで30年ほども枯らした板は、しっとりとした柔らかさ、みずみずしさのようなものさえ保持しています。一鉋かけると適度に乾燥をかけた良質の針葉樹のような質感があります。樹種の特性なのか、あるいはトチだとすると個体差によるのか、やはりよくわかりません。そのあたり、同業者の人ならば、画像の鉋屑を見れば察してもらえるでしょう。

赤っぽい屑が天板。白い屑が戸板の栃

赤っぽい屑が天板。白い屑が戸板の栃

上が天板の屑、逆目を抑えるため裏を効かせているため縮緬状の屑になる。下は戸板のトチ。

上が天板の屑、逆目を抑えるため裏を効かせているので縮緬状の屑になる。下は戸板のトチ。

今回も、櫻井銘木の専務とそのご子息が来場下さいました。私は、滅多と櫻井さんで材料を買うことのない(つまり櫻井さんの材を使うような仕事のない)チンピラ木工屋ですが、この扉と背板は、御社で頂いたものです。と言うと、そうですねと覚えてくれています。それで、天板の樹種について上で書いたような疑問をあげた上で尋ねると、目を見るとトチだと思うが、確かに疑問の点もその通りで、断言しかねるとの事でした。櫻井さんに聞いて分からないのなら、これはもう諦めるしかありません。ちなみに櫻井専務は、もっと以前に買った霧島杉のことも覚えていらっしゃって何に使われましたかときかれた事がありました。さすがにプロです。

側板

側板。一旦割って接ぎ直している。

側板。一旦割って接ぎ直している。

この板は、大阪の古い民家(昭和最初期)を解体する時に頂いてきたものです。床の間の書院の側に使われていました。かなりひどく捻れ反っていました。これを幅方向と厚み方向にそれぞれ2分割(木口から見ると「田」の字に)して、それぞれ歪みを取って、幅方向に再度接ぎ直しました。もともと39ミリ程の板が、12ミリの板2枚となりました。歩留まりという面では、こんなものかと思います。

戸板

戸板など見付部分。戸板の上下に端嵌めを施す。

戸板など見付部分。戸板の上下に端嵌めを施す。

戸板というかそれを含む見附部分全体と背板は、6年前にある仕事のため櫻井銘木さんから購入した板のあまりを使っています。もともとかなりの量のトチの鏡板が必要で、櫻井さんに相談した所、6分か7分ほどに挽いた良い木味の綺麗な板をお持ちで、それを譲ってもらいました。この部分は、仕上がりが9ミリ程になりました。縦使いしています。戸板としてそのまま使うのは薄すぎるのと、反り止め・収縮止めを兼ねて上下に15ミリほどの厚みの端嵌めを入れています。框を組むように左右に同じトチで裏打ちしています。左右の戸はこすれる程ぎりぎりの寸法に削り合わせたのですが、ギャラリーに1日置いたら1ミリ弱程度の隙間が空いてしまいました。反りは押されられているのですが、端嵌めでは6年以上も枯らした板でも収縮を抑えることは出来ないのかと思いました。

丁番

サクラの透かし彫の丁番

サクラの透かし彫の丁番

丁番などの金物ですが、市販のものに正絹磨きをかけたり色々試してみたのですが、結局以前、若い金工作家に作ってもらったものを今回も採用しました。もう15年以上も前に、彼がまだ大阪の工芸高校に在学中に作ってもらったものです。こちらの厨子に使っています。細かいサクラの図案を、糸鋸で抜いた見事なものです。ただ、強度的な問題があって使う機会がなかったのです。

トチの古材の碁笥ごけ用の小箱

トチの古材を使った小箱です。碁笥ごけ(碁石を入れる丸い器)を入れるものです。

蓋の内側に朱の漆を塗っています。こわごわと、でも少しずつ色漆を使っていこうと思っています。

トチの古材を使った碁笥(ごけ)入れの小箱

トチの古材を使った碁笥(ごけ)入れの小箱

 

蓋の内側は、布着せをした朱の漆を施す

蓋の内側は、布着せをした朱の漆を施す

木工のルーティンワーク・板接ぎ

雨続きで、相変わらず木工屋にとっては煩わしい状況ですが、ルーティンワークとも言える作業をしています。板のひき割りと()ぎです。寸一(34mm)厚のクリの板を縦に割って、幅方向に接いで700✕410✕12ミリの板4枚・他を作りました。板接ぎにはいくつかの流儀があるようですが、細かい技術的な問題を別にして私が気をつけている点を書きます。

傷、シラタなどを外す

あらためて書くまでもないことですが、希少な一枚板の場合は、干割れとか木口割れ、あるいは死に節などの傷でも補修して使う場合があります。接ぎ板の場合は、あえてそうした材を使う必要はありません。見えないあるいは見えにくい部材として使えば良いのです。

木表を揃える

木裏使いをしない私にとっては、これは、たいへん重要な点です。アマチュア向けの木工の入門書などに板接ぎの場合、木表と木裏を交互に並べるべき、とか書いてあるのもありました。反りを相殺する云々。まあ、いかにもアマチュア「木工家」の思いつきそうな屁理屈です。そんな生乾きの材料を反り止めも施さずに使う方が問題です。

支給されたヒノキ板で作ったテーブル。木表を上にして接いである。

支給されたヒノキ板で作ったテーブル。木表を上にして接いである。

なぜ木裏使いがダメなのかは、木を扱っていれば誰でも分かるイロハの問題です。若い人には、タマネギの切断面を例に説明したりしてきました。もう一枚、松の画像を載せておきます。こうした「めくれ」と呼ばれる現象は松や杉などの針葉樹に顕著に現れます。大工職は少し前までは当たり前に松板を削り廊下を貼っていました。そのため今でも木裏・木表に関してはシビアに考えています。こうしためくれは、広葉樹でも起きます。私の20年足らずの経験でも、タモとそれから散孔材であるクルミでやらかしてしまったことがあります。いずれも店舗のテーブルの天板でしたが、めくれのトゲでお客さんと店員の方に怪我をさせてしまいました。店舗の場合は空調も含めた使用環境が無垢の木にとっては極めて厳しいので、早々とこうした問題が現れただけで、一般家庭でも遅かれ早かれ同様の問題は出てくると思います。

タマネギの「めくれ」

タマネギの「めくれ」

松の木裏、めくれ上がって折れている

松の木裏、めくれ上がって折れている

おまけ → 看板は必ず木表を前に!

もうひとつ、ついで書いておくと、看板は必ず木表を前にします。これは親方から教わりました。理屈ではなくそうしなければならない決まり事なのだそうです。あえてわけを詮索すると、お客さんに尻を向けるのは失礼とか表の顔を隠さずきちんと晒すとか、商いの姿勢に関わる縁起かもしれません。あるいは長い期間、風雨に曝されることが前提なので、上の図のようなめくれが起きるのをさけるという実用上の問題でしょうか。街に遺る古い木の看板を見ると必ず木表を前にしてあります。その禁をあえて破る積極的な理屈がない限り守ったほうが良いと思います。

見た目も大切に

特に、テーブルや机の天板、箱物や建具類の鏡板などでは見た目も大切な要素です。往々にして板目の材を端から並べてはいでいくと、ごちゃごちゃしたうるさい物になりがちです。無難なのは、中央部に板目の材を置いて、その両側に柾目の材を接いでいくやり方です。これですと実際の幅広の板の木目に近いものになります。私は昔から中杢と言われてきたそうした木目が上品で落ち着いた雰囲気で好きです。そのために、メインとして使う材は柾目と板目の材をそれぞれストックしておく必要があります。

クリのはぎ板 700✕410ミリ

クリのはぎ板 700✕410ミリ

私がメインで使ってきたクリは、流通している材の多くがダラ挽きと呼ばれる丸太を板目方向に順送りに挽いていく製材方法で板にされたもので、しかも耳つき材です。したがって、板接ぎの場合は苦労してきました。前に書いた岸和田で購入した材は、きちんと板目・柾目を考えて製材してあり、しかも不用な耳を断ってあります。したがって、画像のようなはぎ板が比較的簡単に作れました。単価は従来のものの丁度倍ほどしましたが、歩留まりも含めて十分その値打ちはありました。

ちなみに上の画像もクリックすると拡大します。どこで接いであるか探してみてください。

トチの小箱

仕事では今、小さな箱を作っています。あるものを入れるために依頼されたもので、315mm✕180mm、高さ120mmほどです。一つで良いのですが、段取りに比べて実作業の手間はそう変わらないので、材料さえあれば展示会用などにこうしたものは二つ以上同時に作ったりします。

製作中のトチの箱の被せ蓋

製作中のトチの箱の被せ蓋

今回は、手持ちのトチを使っています。被せ蓋作りにします。画像はその蓋の部分です。細かい縮杢の入った材料で、はじめは拭漆で仕上げるつもりでしたが、削ってみるとクサレと云われるトチ特有の青い筋が意匠的にもそれなりに面白そうです。表はオイル仕上げにして、蓋の裏と台の部分を本堅地に色漆にしようかと思います。今、試していることをさっそく仕事に使ってみるわけです。色は黒がまあ普通ですが、一つは朱にしてみます。蓋を取った時に漆の朱が現れるなんて面白そう。美空ひばりの歌で、髪のみだれに手をやれば赤い蹴出しが風に舞うというのがあったなあ。そのノリだとしましょう。私、あの歌好きです。「津軽のふるさと」と同じくらい好きです。

縮杢にクサレのアオ

縮杢にクサレのアオ

留の部分は、直方体に欠きとってサネ状に角材をかまして接着しています。裏側から布を着せるのでこれで充分かと判断しました。もちろん、イモ着けよりは多少は接着面が広がりますし、イモと違って接合部分の基準が出来るのでまぎれが少ないという利点もあります。箱の蓋ですし、構造的な強度が要求されるものでないし、ビスケットでいいじゃないかとも言われそうです。そちらのほうが強度の点でも、あるいは有利かもしれません。しかし、別のところでも書きましたが(剣留工作と導突鋸)、木を組むのにビスケットジョイントを使うというのは、木工屋にとって麻薬のようなものだと思っています。敷居の低さという意味では、今なら脱法ドラッグかタバコのようなものでしょうか。一度手を出すと、まともな生活が難しくなるように、ちゃんとした仕事が出来なくなります。私はまだ木工をやめたくありませんので、けっしてやりません。安い材料で、安い仕事と割りきってもらえるなら、表から何ヶ所かチキリという材をはめ込むやり方もあります。これもいかにも素人臭いダサイ工作になります。私は好きではありません。

被せ蓋の留部分

被せ蓋の留部分

漆定盤使っています

先日作った漆定盤(→「山に樹を見に行く3 ミズメ」)、さっそく使っています。素材はここで紹介したナラの刳り物です。

米粉を炊いて練った続飯(そくい)に生漆を混ぜて糊漆を作る

糊漆を作る

糊漆を作る

糊漆で木口に寒冷紗を貼る(布着せ)

布着せ

布着せ

漆錆を付ける(錆付け)

錆付け

錆付け

これを研いで生漆で固める(錆固め)

錆固め

錆固め

色漆(黒)を塗ってみた。下地の荒れがモロに出るのは、ウレタンなどと一緒だと納得。写真が悪くよく分からず申し訳ありません。

色漆を塗ってみた

色漆を塗ってみた