小泉和子さん編集の『別冊太陽 和家具』にある利休文机が好きで、いつかそのレプリカを作ってみたいと思っていた。極限まで虚飾を排したそのたたずまいは凛とした美しさがある。しかもそこには洗練された高度な技術の裏付けがある。
『太陽』の記述にもとづき利休文机の特徴をあげると以下のようになる。
昨年、解体される古い大阪の民家から頂いてきた床の間の書院の栃の棚板があった。その幅がほぼ尺五寸(450ミリ)強と適当であったし、古材で枯れきっているので端嵌をもちいても大丈夫であろうと思って作ってみた。
割れ、虫食い、入り皮などの傷をはねて、それでも1100ミリ強(3尺4寸)程度の間口の天板が取れる。ただし、端嵌の材の一つが木取りすると大きな入り皮があり、その部分のみ別の栃に板からとる。もともと板の厚みは35ミリ(寸2分)ほどもあったが、ムラをとり厚みを出すと25ミリほどになる。『太陽』の作例のように15ミリまで薄くする根性はなかったので、21ミリ(7分)に仕上げる。それに削るうちに木表に入り皮が現れる。もともと木裏を天板の上や見付けに使うことは絶対にしない。それにこの手の多少とも玉杢の入った材で木裏を上(表)にするのは特に御法度なのでそのまま使う。加えてこの手の古材ではありがちなことだが、かなりの数のピン(虫)の跡がある。これは
上は端嵌工作の概要。筆返しの端の部分が端嵌の留の部分から薄くせり出す形になり相応に微妙な工作となる。
端嵌の溝は丸鋸盤とカッターで作るが、留部分の溝は畔挽き鋸と鑿で穿つ。これも筆返しがあるからだが、基本的に私はやばい(危険)と思う仕事は機械ではやらない。筆返しのアールは出丸の鉋で削る。
天板と脚の接合は2枚ホゾで行う。『太陽』では地獄ホゾとなっていたが、これはX線解析を行ったわけでもない限り疑わしいと思っている。地獄ホゾというのは、この仕事をはじめてしばらくの間使った事がある。ホゾ痩せしてがたついても逆に抜けずに補修が出来ないということになり、今はやらない。
さて、この利休文机は先日の40人展に出展した。たいへん地味なものだが、相応に玄人受けはしていたようだ。天板の反りに対しては端嵌が効くが、ヌキや幕板にあたる物がないので、捻れに対して対応できない。その分、充分に枯れて乾燥した良材の使用が前提になるし、塗装も拭漆など木地を固めて湿度の変化に強い物でなくてはならない。一見した形が簡潔である分、作り手の感覚や腕が問われるが、その姿は無駄な虚飾や贅肉がなく瀟洒で凜としたたたずまいとなる。他にも枯れた古材があるので、また違う材で作ってみたい。