木の仕事展IN東海2013も無事終わりました。三日間のグループ展とはいえ、その前後は仕事や生活のペースが乱れます。仕事の面で言えば、前の一週間ほどは、展示するものの制作の追い込みになりますし、終わったあとも追い込み期間中に乱れた道具の補修や材料の整理などに時間を取られます。鉋なども、追い込み期間中も当然研がなければ使えないわけですが、つい砥石の面直しをいい加減に済ませてしまって、刃先線が微妙に曲がっていたり裏がだれていたりします。そうしたものを多少いつもより慎重に時間をかけて調整したり研ぎ直したりします。
今回の展示では、ワークショップとして家具材を使った鍋敷き作りという企画を行いました。好評で、結局3日間で20名以上の参加があり、私の持参した鉋2枚を主に使ってもらいました。18ミリ角の短い角材に鉋かけをして仕上げて、それを3本ワイヤーで通して鍋敷きにするというものです。三日目にはさすがに少々切れやんではいましたが、心配していた刃こぼれもなく、台下端もおかしな変形はしていませんでした。まあ、素人にの方にチョコチョコ使われたくらいで痛むような道具では困るのですけどね。
そのかわりというか、補助作業用に持っていった切り出しに少し大きめの刃こぼれが2ヶ所生じていました。ほとんど使っていなかったのですが、作業台の上に玄能などの他の道具と一緒に置いてある間に、そうしたものに触れたりして刃がこぼれたのだと思います。私も自分の仕事の時によくやってしまいます。仕事の上でもそう使用頻度の高くない道具なので、切れ止んで研ぐより、そうした事故で研ぐほうが多いように思います。恥ずかしい話ですが。そうしたこともあって、やはり裸でなく鞘を作って保管しておかねばならないなあとずっと思ってきました。それで、今回展示会後の道具の研ぎ直し・補修のついでに切り出しの鞘を作りました。左右2本。このタイプの切り出しはコミとなって鞘に収める部分も鉄になっていて柄は不要ですので、切れ刃の部分を収める鞘だけ作ればよいので簡単です。なぜこんな簡単なことを10年以上サボって放っておいたのかと、呆れるというより不思議な気持ちになります。この右勝手の切り出し小刀は、地金に普通上等の鉋に使う柔らかく研ぎ易いものが使われています。元より研ぎ角を徐々に大きく仕込んで、今では家具用の固めの広葉樹もサクサク削れて、でも刃こぼれもおこさない大変よい状態になっています。
この仕事を始めたばかりの頃、廃業する木型屋から様々な種類の小鉋を購入しました。その時についてきた小さな切り出しがあります。使うこともなくずっと道具棚の中で放置してありました。ついでのついでに、これを研ぎ直して、不細工な鞘も入れ直しました。このように、ちゃんとしたというか職人用の切り出しとか繰り小刀というのは、鞘も柄もすげてない状態で売られています。ようするに自分のする仕事や用途、手の大きさに合わせて柄や鞘の大きさや材を選んで自分で作れということでしょう。それが面倒と思ったり、出来ない人は、まあ別に鞘に入ったものも市販されているので、それを選べばよろしい。
この小刀の鞘入れに関して意外にもあまりネット上に情報がないようなので、ここに簡単に記しておきます。
まず、鞘に使う適当な板を用意します。市販品では柔らかく手に馴染みの良い朴の木がよく使われいるようですが、まあなんでもかまいません。今回は、適当な大きさ・厚みのチェリーの端材があったので、それを使いました。縦に2枚に割って使うと、あとで張り合わせた時に木目があってきれいですが、これもこだわりがなければ薄い板2枚を重ねてもいいです。柾目材できれいに張り合わせれば、それでも継ぎ目は目立ちません。縦に割る場合は、刃物の厚み考えて、掘り込む方の板(刃表側)を刃物の厚み分大きく取っておきます。
刃表を下にして、墨を付けます。鉛筆でいいです。刃表側は微妙な凹凸がありますが、それに合わせて慎重に彫刻刀や鑿などを使って掘り込みます。極端に神経質になる必要もありませんが、後で述べるような理由で相応に忠実に刃の形をなぞるようにします。
掘り終わったら2枚の板を接着します。掘った方の板は作業の過程で平面が痛んだりダレたりしていますので、薄く鉋をかけて修正しておきます。また接着する前に、あとで切断する位置の木端などに導突き鋸などで目印となる切れ込みを入れておきます。これを忘れると接着後切断の段階であわてます。鉛筆などでは、鉋などで整形したときに消えてしまいます。
接着後、鉋で整形。先に付けた目印をもとに切断位置に墨を付けます。
切断は、導突き鋸などのなるだけ薄くアサリの小さな鋸で行います。横切り盤などの機械で切ると切りしろが3ミリほどにもなり、せっかく刃物に合わせて掘った鞘や柄の部分が短くなり収まらなくなってしまいます。
柄の部分に、小刀のコミを入れます。柄の尻を玄能で何度か叩いてキッチリ収まるくらいが丁度良い硬さです。あまり緩いと作業中にグラグラして危険ですし、硬すぎると研ぐときにコミが抜けなくなります。時間が経過すると柄の中でコミが多少なりと錆て硬くなります。はじめの掘りこみを慎重に行なっておくと、結果的に研ぐたびに抜き差し緩むのと相殺してなんとなく良い硬さに収まるように思います。切れ刃の部分の鞘は、抜き差しを頻繁に行うので、あまり固いと使いにくい。それでも簡単に抜けすぎるとなにかの拍子に鞘が抜けて危険です。鞘を下に向けて持ち歩くなど軽く振動を加えても抜けない程度の固さがあれば安心です。ただし、切れ刃は研ぎ進むに連れて短くなるので、だんだんと緩くなりがちです。実際に下でお見せする左右2本の繰り小刀の場合、使って研ぐにつれて2本とも緩くなってしまいました。これも、切れ刃の背の部分は厚くなっており、しかも先端に行くほど厚みがますような形状のものが多いので、鞘を掘る時にそのあたりを慎重に行なえば研ぎ減らしても十分固さを保持さいた鞘は作れると思います。具体的に言うと、その切れ刃の先端部分の一番厚みのあるところを鞘に刺すとき、合わせ面の接着が取れない程度の抵抗があって、そこを抜けるとパチンと吸い込まれるような感じて収まると理想です。ねじ込み式でない昔の嵌合式の万年筆のキャップのような感じです。
最初の掘り込みを丁寧にやっておけば、このように切断後鞘と柄を入れても修正の必要がない程度にきれいに合わさります。それに、右の画像のうように鞘だけ持って下を向けても刃物が落ちない程度の嵌め合い具合だと何かと安心です。はじめから鞘と柄を分けて作りやりかたも有りますが、かえってうまく合いません。それに鞘と柄を仕込んでから鉋などで削ろうとしても、微妙に動いたりしてやはり上手くいかないものです。