あるメーリング・リストでのやりとりで教えてもらった事です。
多くの方が、ご自分のメールの本文の末尾に決まった形の署名欄を設けています。それなりに便利ですし、たとえ最低限の情報であっても、きちんと名乗られている感じがして良いものです。このメールの署名欄の付け方にも、約束があるようです。以下のような簡単な事です。
典拠で見つける事が出来たのは、draft-ietf-usefor-article-08.txt で、該当部分を引用します。
On comp.foo in <1234@bar.example> on 24 Dec 2001 16:40:20 +0000, Joe D. Bloggs <jdbloggs@bar.example> wrote:
Am 24. Dez 2001 schrieb Helmut Schmidt <helmut@bar.example>:
A "personal signature" is a short closing text automatically added to the end of articles by posting agents, identifying the poster and giving his network addresses, etc. Whenever a poster or posting agent appends such a signature to an article, it MUST be preceded with a delimiter line containing (only) two hyphens (US-ASCII 45) followed by one SP (US-ASCII 32). The signature is considered to extend from the last occurrence of that delimiter up to the end of the article (or up to the end of the part in the case of a multipart MIME body). Followup agents, when incorporating quoted text from a precursor, Ought Not to include the signature in the quotation. Posting agents Ought to discourage (at least with a warning) signatures of excessive length (4 lines is a commonly accepted limit).
多くのメールソフトでは、別に署名ファイルを作ると、自動的に本文末尾にそれを挿入してくれます。私の知っているメールソフトでは、Sylpheed、Mew、Becky、それにMozilla、Netscape 7、Operaのメーラーなどは、その区切りに、ここに例示されている二つのハイフン--を入れます。どれか忘れましたが、署名欄の内容が4行以上になると警告するものもありました。なるほど、こうしたソフトは皆で決めた約束ごとを大事にするという姿勢で、真面目に作れたものであると改めて思います。マイクロソフトのOutlook Expressがどうなっているかは、もはや敢えて問わない事にします。
だからどうなんだ、と言う意見もあるかもしれません。しかし、別にインターネットに限らず、社会のマナーとかルールと言ったものは、自然に、誰に強制されるでもなく形作られたものがたくさんあります。挨拶の言葉や行儀といったものもそうでしょう。それらを守ることで、随分気持良く私たちは暮らすことができます。
それに、便利な機能もあります。私の使っているSylpheedというメールソフトでは、設定によって、返信の際の引用に--より後の署名部分を自動的にカットしてくれます。私は、メールに返信する場合、コメントしたり対話を進めるのに必要な部分だけを引用として残します。それ以外の部分は、消します。当然相手の署名も消しますから、その分の手間が省ける事になります。メールの全文引用は無意味であるばかりか失礼、とりわけ相手の署名を引用に含めるなどもっての他と思います。理由は、少し考えれば誰でも分かるでしょう。
メールの引用の機能というのは、たいへん便利なものです。相手の言葉に直接語り返すような調子で、言わば対話的な感覚で返信できるわけで、使い方によれば有意義なものだと思います。次のような使い方です。
>小泉純一郎のような無定見な人を、首相にしておく限り >我々オッサン達は、若い人に説教は出来ないと思う。 その意見には全く同感です。
ただし、全文引用となると全くその意味がありません。考えようによっては出した手紙をそのまま送り返されたような感覚にすらなります。それなら、いっそう引用をしなければ良いでしょう。まして、引用の中に相手の署名を含めるというのは、たいへん失礼な事だと思いませんか。つまり、相手は自分のために署名欄に必要な情報を入れて名乗ってくれているわけです。それには、自分の個人情報を相手のために、敢えてインターネットというわけの分からない場所に晒すというリスクを負っているわけです。それを、相手の返信にそのまま引用してインターネットの中に晒して返すというのは、本人以外の他人がしてはいけない行為だし、ある意味では差し出された名刺をそのまま突き返すようなものだと思います。
私は、最近までこの署名欄の約束ごとを知りませんでした。むしろ、そのまま使っておれば良いところを、初期設定の二つのハイフンに余分にハイフンを付けて、イイカッコのつもりでいました。恥ずかしい話です。
これまで頂いたメールを振りかえると49才からのLinux征服計画の米田憲弘さんとか、肝臓の病気の山下繁行さんのメールの署名欄は、この約束通りのもで、改めて感心させられました。もちろん、お二人ともメールの全文引用などは決してなさいませんし、Linuxユーザーですから、機種依存文字を送りつけられる事もありません。こうした方とのメールのやり取りは、親しい中にも襟を正して正座をしてお話をするような清々しさを感じます。
2004年4月8日、パソコン日誌に掲載
これも、あるインターネットとかウエブのアクセシビリティに関するメーリングリストで話題になったことです。視覚障害を持った参加者のために、投稿に際しては、引用の部分に関しては、以下引用です
、引用終り
とコメントする事。また署名に関しても以下署名
とコメントすると分かりやすいと提案されていました。
実際には、あまり実践されていないようです。その煩わしさに加え、何か本末転倒という気がしないでもありません。その議論の中でも話題になりましたが、現状でもメール読み上げソフトの中には、>を引用符と認識して、その部分を音声のトーンを変えることにより表現しているそうです。そうすると、良く言われているように、適当な長さで改行を入れ、引用符の設定をおかしな記号に敢えて変更しなければ、つまり、普通につかっておれば良いと言うことになります。逆に、引用部分を細かく区切ってコメントするような場合、そこにいちいち以下署名です
などとあると、かえって煩わしいでしょう。
これは、ウエブの内容において、見出しは順にh1、h2、段落はpという風に簡単な約束を守ってマークアップ(しるしづけ)すれば、難しい事は分からなくても、それだけでユニバーサルな情報の形になるのと同じことです。それを、どのように表現するかは、むしろ閲覧者の自由や選択の領域となるわけです。前にも触れましたが( ホームページリーダー V3.01(体験版)使用記)、ある音声読み上げブラウザでは、hは小さなベルの音で見出しと表現しますし、見出し読みモードという便利なモードがあって、目視の斜め読みに対応しています。ただし、このような機能が生きるのは、内容に応じてhとかpといったタグでマークアップされている事、つまりウエブの基本的な約束が守られている事が条件になります。
署名欄の二つのハイフンを認識して表現出来るのか否かは知りません。ただ、そう難しいことでもないように思います。大事な事は、ここでも歴史的に作られ守られてきたルールや、決められた標準を守るという事です。それは、一部の横文字で職種を呼ばれたい人たちが大騒ぎするように、何も表現の内容や方法を制約するという事ではありません。逆により多くの異なった環境や条件にある人にインターネットの利用と、自由な表現の手段をより広く提供する事になります。その結果、一部の悪質な詐欺まがい独占企業の独自拡張とか私物化と言った横暴を許さず、本当の意味での自由を守る事になると思います。
2004年4月18日、パソコン日誌に掲載。