南京鉋は、大工とは縁のない道具のようですが、椅子を作る木工屋なら誰でも持っています。必須の道具のひとつでしょう。
写真は、今作っているクリの椅子の笠木と呼ばれる背中の当たる部材です。これを帯鋸で切り出した後、この南京鉋で削って整えます。長く伸びた柄の部分を両手で握り、材の片方を作業台(当盤と言います)に、もう片方を腹で押さえて固定して削ります。アマチュア向けの本には、木工万力で固定するような事が書いてありますが、仕事として数をこなさなくてはならない場合、そんな悠長な事はしておれません。工房に遊びに来て頂いたアマチュアの人に、試しにやって頂くとたいへん喜ばれます。巧く削れると、台鉋の場合より、木を削っていく感覚が直接指に伝わり良いものです。
道具屋で売っている南京鉋は、ただ真っ直ぐな樫の棒に刃を埋めただけのようなものです。これを自分の手の大きさや用途に合わせて使いやすい形に徐々に手を加えていきます。そうしてだんだん手に馴染んでくると、ますます自分の道具として愛着がわいてきます。なれないと、湾曲した材に刃先が巧く当たらないのですが、自分の馴染んだ道具ですと、指先でなぞるように刃先が当たり、きれいな鉋屑が出てきます。
南京鉋も、用途から言って刃口の痛みが激しい道具です。したがって買ってきたら使う前にあらかじめ刃口埋めをしておきます。横着をして、そのまま使うと台自体が痛んで、後々使いづらくなります。
普通の台鉋・平鉋は、下端の調整が難しく、素人の方が自己流の得手勝手でいじっても、まず使えません。逆にこうした南京鉋を先に購入してみて、研ぎも含めて色々遊んで見るのも面白いかも知れません。普通の金物屋とか刃物屋にはまず在庫はしていないと思いますが、注文すれば三木なり新潟の問屋からすぐに取り寄せてくれるはずです。
2004年9月28日、工房日誌に掲載。