ダイアトーンのP-610とならんで、国産の16cmユニットの名機と言われたパイオニアPE-16の限定復刻版です。P-610がやはり復刻版を最後に生産を中止し、市中に正規の在庫がない中で、フォステックスを除けば残された唯一のオーディオ用ユニットと言えます。2003年4月現在、まだ秋葉原や日本橋の電気店で在庫品を正規に購入できます。
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仕様や特性上は特筆すべき点はないようです。フレームは鉄板のプレスで、アルニコの磁気回路を覆うように円筒状のカバーが付けられています。これだけで、随分物としての高級感があります。端子も螺子式で、私のようにアンプの出力をY型の圧着端子で接続している場合、別の端子を介する必要がないので便利です。
型番 | PE-16M |
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ボイスコイル・インピーダンス | 8Ω |
最低共振周波数(f0) | 80Hz |
再生周波数帯域 | f0〜16,000Hz |
定格入力 | 3W |
最大入力 | 20W |
出力音圧レベル | 92dB/W(1m) |
等価質量 | 7g |
Q0 | 0.8 |
空隙総磁束 | 36,000MX |
空隙磁束密度 | 11,000G |
外形寸法 | 165(径)×113(奥行)mm |
取付寸法 | φ 155mm |
バッフル開口 | φ 146mm |
質量 | 1.1kg |
いわゆるサブコーンを持たない通常のシングルコーンで、中心付近に5本のコラゲーションがあります。ボイスコイルボビンのキャップも金属ではなく、コーン紙と同じ紙製です。f0も80Hzと高めで、高低とも無理にレンジを広げようとはしていないようです。そうした奇をてらった所のない、極めてまっとうな作りに好感が持てます。
嬉しいのは、エッジが布製である事です。ダイアトーンのP-610の場合ウレタン製のエッジが数年を経ずしてボロボロに劣化してしまいます。その他にも、エッジとコーン紙の接着部分、ガスケットとフレームの嵌め合い、フレームのプレスの形状など、全体的にとても丁寧な作りで、かつての日本の工業製品の品質の高さをほうふつさせます。そうした点からも、このユニットはおかしな使い方をしなければ、長期の使用や保管も大丈夫でしょう。
平面バッフルに付けての音出しの第一印象は、随分重心の低い大人しい音だな、という事です。それと、初めサワサワ・ガサガサといった感じの付帯音のようなものが気になりましたが、これはすぐに無くなりました。このユニットは珍しくも新品を購入しましたので、多少のエイジングが必要です。これは、多かれ少なかれ、どのユニットにも言えることで、新規にユニットを購入した場合気をつけて下さい。どなたも、苦労して箱を作って最初鳴した時はガッカリするものです。
暫く鳴し込んでも、重心の低いおとなし目の音という印象は変わりません。パイオニアというと、明るく元気の良い音というイメージがあったので、意外でした。同じ16cmのP-610DBに比べても、随分渋目の音という気がします。ただし、重くバッフルにへばり付くような音ではありません。軽く前に出てきて小さな音像を描いてくれます。心地好い音です。
アーメリンクの声は、5歳か10歳ほどお年を召したかのようにも聴こえます。でも、いきなり初老を迎えた御婦人の声に化けたりはしません。ピアノの伴奏の低い音は、スカを踏んだような音になります。これも、一部の大口径フルレンジやウーファのようにボアボアした締りのない音より遥かにマシです。このボアボア音というのは、ピアノの響板を閉じて、右のペダルを踏んで、その上から毛布でも掛けるとこんな音になるのだろうかと思わせるいやな音です。こうした音を出すユニットは、むしろ小さめの箱に入れて、半導体のアンプで強力な制動をかけて鳴すものでしょう。
今試聴に使っている平面バッフルは、いかにもスペースファクタが悪いので、普段用にこのユニットを使ってスマートな後面開放型の箱を作ろうと思います。 P-610 は、既に中古やオークション市場でも高値になりつつあります。また、ウレタンエッジの劣化の問題が付きまといます。この PE-16M ならそうした心配もありませんし、普段音楽を聴くのに、何の不満もありません。