このユニットは、ほとんどジャンク同然の中古品を、後述のように補修を加えて聴いています。従って、オリジナルの物とは多少なりともその音は違っていると思います。もっとも、現在ではオリジナルのコンディションを維持出来ている物は、デッドストック品と言えどもおそらくないでしょうから、比較自体が無意味でしょう。
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型番 | 8CX-501 |
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ボイスコイル・インピーダンス | 8Ω |
最低共振周波数(f0) | 30〜45Hz |
再生周波数帯域 | 30〜25,000Hz |
定格入力 | 3W |
最大入力 | 20W |
出力音圧レベル | 100dB |
等価質量 | 12g |
Q0 | 0.45(40Hz) |
総磁束 | 135,000MX |
磁束密度 W | 11,500G |
磁束密度 T | 12,500G |
最大外形寸法 | 240mm |
取付穴寸法 | 222 (194)mm |
バッフル穴寸法 | 208 (178)mm |
奥行寸法 | 139mm(max) |
質量 | 3.1kg |
ウエッブを検索してみても、このユニットの情報はあまりありません。図書館に行って、古い『無線と実験』とか、『ラジオ技術』、『電波科学』などの雑誌を調べればすぐ分かるのでしょうが、ウエッブを利用しだしてから、そんな事も面倒になってしまいました。
8CX-501という型番のものもあるようです。こちらは、フレームやホーンの形状は同じですか、インピーダンスが8Ωとなりコーン紙が白くコラゲーションもない。逆にホーンは黒く艶消塗装されています。ガスケットも当時のユニットによくあるボール紙を重ねたような材質のようです。右の仕様書も、ウエッブから拝借して孫引きした 8CX-501 のものです。詳しい製造期間は分かりませんが、30年以上前につくられた事は確かなようです。モニタースピーカ風の最近のユニットを見慣れた目には、一種異様なスタイルに見えます。この当時は、ウーファのフレームにステーを付けてツィータを渡したような形状の同軸型2ウェイユニットが海外メーカーも含めたくさん作られていたようです。本来的な意味での同軸、つまりウーファのポールピースに当る部分に、別の磁気回路を持ったツィータを埋め込む形より簡単に作れますから、その意味では合理的な形式と言えます。それにしても、このスタイルはなんともダサイ。せめてホーンの上側のcoralのロゴの入った部分がもう少し小さく控え目で、渋い艶消の塗装が施してあれば随分違った印象になったでしょう。
右の仕様書は、8CX-501のものですが、インピーダンスを除けば特性は大差ないでしょう。出力音圧レベルが 100dB とえらく高く表示されてますが、ある海外のメーリングリストによると当時のJISによるもので、50cmm/Wの値だそうです。1m/W 換算で94dBになるそうで、聴感上もそれくらいが妥当な感じです。それでも、現在のユニットに比べれば相当な高能率である事は変わりません。フレームの形状からアルニコ磁石を使っていると思われます。総磁束も135,000Mと強力です。
栗の無垢板 1000×800mm、厚み27mmの平面バッフルに、樺のサブバッフルを介して取り付け聴きます。その音はたいへん気に入りました。見た目に反して、とても大人しく落ち着いた静かな音です。小音量でも音がバッフルに張り付かず前に出てきます。アーメリンクの声はとてもチャーミングに歌います。インパルのマーラーも、良いホールの後の方の良い席で聴くとこんな風に聴こえるのかと思わせます。コントラバスもシンバルの音も、小さいながら聴こえてきます。いつもより、ボリュームをつい上げたくなります。
評論家の真似事のような言い方をされる人にとっては、このユニットは"ハイ上がりの"、あるいは "ボーカルの子音が"と言う事になるのかもしれません。下記のように、ネットワーク素子をいじっているので、もう少し自分好みに調整しても面白いかなとも思います。ただ、もう二週間以上バッフルに付けて聴いていますが、この音をうるさいと感じボリュームを絞った事は一度もありません。
このユニットは、ネットオークションで入手しました。オークションの商品写真ではいかにも古く程度も悪そうだったのですが、音は問題なく出る
との事だったのと、他の入札者が少なく安い価格で落札出来たので手にいれました。以下は、入手後の自己流の補修記です。
裸で、音出しするとどうもおかしい。ヌケの悪いかすれたような音しかでない。良く見ると、ホーン型のツィータへのリード線が2本とも断線している。これは、二つのユニットとも同じ。ウーファのコーン紙もまだらに焼けて色落ちして、破れこそしていないが、所々亀裂が入っている。紙自体が腰が抜けたような状態でヘナヘナである。フレームの塗装も剥落が目立ち、ガスケットのゴムも硬化して下手に触ると剥れそう(実際、剥れた)。
それでも、ツィータにアンプ出力を直結させて改めて音だししてみると、意外や綺麗なまとまった音が出る。気を取り直して、補修してみる事にする。
まず、ツィータのホーンを外してみる。この時、案の定ガスケットの一部が剥落する。錆が浮き、タバコのヤニ様の物がこびりついたアルミダイカスト製のホーンは、ピッカールで磨いたら見違えるように綺麗になった。ついでに、ツィータのリード線は剥落したガスケットの隙間から、フレームに固定されたユニットの端子へ伸ばす事にする。バナナプラグ対応のその端子自体がぐらついて、早晩接触不良を起しそうである。なおかつ、フレーム内側にあるナットを増締めしようにもダンパーを外さない限り無理。結局これも外してしまい、タップでフレームに3mmのネジ穴をあけ、ベークのラグ端子を立てる。ここに、ウーファ、ツィータのリード線を集め、アンプに繋ぐ線もハンダづけしておく。
ツィータのネットワーク用のコンデンサと酸化金属被膜抵抗は、ホーンの裏側にベークのラグ端子に取りつけてあった。これも容量や抵抗値の変化が気になるので交換して、このラグに付ける事にする。元のコンデンサは、2MF/25WVの表示がある。取り外して容量計で計ってみたら、4.5μFあった。抵抗値の方は表示通り、ピッタリ8.2Ωである。さすがに酸金抵抗は丈夫だ。コンデンサの方は2倍以上に容量増加している。昔のペーパーコンデンサやそれにオイルを浸潤させたオイルコンデンサでは、よくある事のようだ。見たところアルミ電解コンデンサのように見えるこうした物でも容量増加があるのだろうか。この容量が増えた事によりツィータの低域のカットオフ周波数が下がり、結果的に一聴した時の音のまとまりにつながっていたのだろうか。しかし、あまりに下までツィータのカットオフ周波数を伸ばすのはコワイので、表示に従い、2.2μFのフィルムコンデンサを付ける事にする(松下製 メタライズド・ポリプロピレンコンデンサ 250VA \140)。メタライズドポリプロピレンは音が悪いとマニアから言われそうだが、当然無視。今時、PCB使用などで公害問題で製造中止になったオイルコンなど有り難がって使う方がおかしい。
次に、亀裂の入り腰の抜けたような状態のウーファのコーン紙の補修にかかる。亀裂は、御飯粒を水で練った糊を塗り、千枚通しで亀裂の部分の繊維をほぐして絡めるようにして接着する。腰抜状態を直すのに、柿渋を塗ってみた。和紙に柿渋を塗った物は染色の型紙や番傘に使われるくらいで、非常に丈夫である。漁網や樽にも使われていたらしい。家具に使っても、時間が経つと独特の濃い色合いが出て、充分な撥水性能がある。どうせジャンク品のようなものだからと、ダメモトでやってみる。5回程塗り重ねると、固く締ったような状態になる。指で弾くと、パンパンと反撥する。かと言って、おかしな塗料をコーティングしたような感じではない。強度と剛性を増しながら、紙本来の高い内部損失と柔軟さを保っている感じだ。(下の写真をクリックして拡大してもらえば、その様子が窺えるかと思います。)これは、大成功だ。カーボン繊維だの、ハニカムだの、はては貝殻や昆布まで、コーン紙の材料には色々メーカーも使っていたようだが、なぜ伝統的な渋紙コーンがこれまでなかったのだろう。
バッフルに取りつけ音出しをしてみる。穏やかでまとまっていながら、音が軽く前に出てくる私の大好きな音!しかし、少し入力が大きくなると、片方のユニットから雑音が出る。もしやと思い再びユニットを外し、ウーファのコーン紙を慎重にに手で押してみると、ボイスコイルの擦れる音がする。はじめから擦れていたか、補修のせいかはわからないが、このままではどうしようもない。無理に使っても、やがて断線するだけだ。糊と柿渋の補修で、コーン紙が硬化すると同時に、部分的に収縮または変形し、それがボイスコイルのボビンを変形させるか、あるいは取りつけ位置を微妙に変化させてしまう事は充分に考えられる。一からやり直し!
再び、ツィータのホーンを外し、ウーファのコーン紙自体を取り外す事を試みる。硬化したガスケットはすぐに外れた。エッジもなんとか外れそうである。ただ、布製のいかにも弱そうなダンパーが難しい。上手く外れたとしても、壊さず再び取りつけるのは無理そうだ。それで、コーン紙を外す事は断念する。次に、ウーファのキャップを外してみた。生剃りという、槍鉋の小型の様な刳物に使う刃物で、コーンを痛めないように慎重に接着部分を切取る。上手く外れる。そこから覗くと、ボイスコイルのボビンとポールピースが接触しているのが目で見ても分かる。どうしたものか暫く思案する。柿渋の塗布で変形して擦れたのなら、それでもう一度変形させて直せるのではないかと考える。ボビンとポールピースの擦れている部分に、薄く切った紙を噛ませる。この状態で、再び柿渋を塗布し、一昼夜置く。見事成功!擦れはなくなる。こんないい加減な対処療法ではたして大丈夫かとも思うが、今のところ問題なく動いている。
その後、これよりはるかに程度の良いユニットをペアで手にいれました。ただし、片方のユニットのツイータが断線しており、またインピーダンスが16Ωでした。8Ωのものも、16Ωのものも、ボイスコイルの直流抵抗を計ると、ウーファ・ツイータとも14.8Ωで同じです。ただ、ツイータに直列にはいる抵抗値が8Ωと16Ωと違うだけのようです。
それなりに苦労した柿渋コーンのジャンクユニットにも愛着があるのですが、ツイータを乗せ代えて新しいペアで聴いています。新しいユニットは、ウーファのコーン紙もやけも少なく比較的しっかりしています。ただ、指で軽く叩くと、柿渋コーンの方はパンパンと乾いた音がするのに対し、こちらの方はボソボソという感じです。モノラルソースを切り替えて試聴すると、新しいユニットの方が、若干音の輪郭が甘くその分レンジが広がったようにも聞こえます。
2003年11月12日
十年以上前の事になりますが、パイオニアのPAX-25A というユニットのコーン紙が破れ補修したことがあります。その時は、柿渋など塗らずに単に破れた部分を瞬間接着剤で補修しただけなのですが、とたんにウーファが鳴らなくなりました。その時はなぜそうなったのか分からず、多いに落胆しました。今、思うと、上に書いた事と同様にわずかな補修でコーン紙が変形し、ボイスコイルが摺れ、運悪く電流を入れたとたんに断線したのだと思います。立派なダイカストのフレームを傲っていても、スピーカの心臓とも言えるボイスコイルは、あらかたこんなもののようです。薄いクラフト紙の様なものに極細の導線が巻き付けてあるだけです。ですから、ちょっとしたコーン紙の補修や、ましてコーティング等は細心の注意を払う必要があるようです。とりわけ、能率を重視した古いユニットは、コイルもコーンも軽く作られ、コイルとピースやプレートのギャップも狭くなっていますから、尚更です。