このユニットは、エッジがほとんど全て剥落したものを入手し、補修しました。
このユニットは、松下製ですがく Technics ブランドではなく、 National ブランドです。1950年代に対米輸出用に作られた Technics ブランドは、その後国内のオーディオ製品にも付けられましたから、これはそれ以前のユニットかもしれません。が、その仕様も含めて詳しいことは分かりません。取りあえずユニットの裏のプレートに書かれた仕様を右に示します。洗濯機や冷蔵庫でおなじみの National のロゴが、こうしたオーディオ製品に付いているのも、かえって新鮮で良い感じです。有名なゲンコツも、国内販売の物はNatinalブランドのようです。
コーン紙の形状や材質などは、コーラル音響の8CX-50とそっくりです。いくら天下の松下と言えども、コーン紙まで自社で作っているとも思えませんから、外注先が同じであるか、あるいはユニットそのものが、コーラルのOEMなのかもしれません。フレームの形状なども良く似ていますが、こちらの方が奥行が浅く華奢な感じです。フレームを通して磁力がもれていますから、マグネットはフェライトの外磁型と思われます。
ツイータは、フレームに渡したホーン型ですが、8CX-50よりはるかにスマートでかっこいい。エッジのほとんど全滅状態のこのユニットを手にいれたのは、もちろんエッジを修理して聴くためですが、それがだめでもこのホーン型のツイータだけでも他に流用できまいかと思ったからです。全体として、コストを押さえながら、製品としてスマートに上手くまとめた、さすが松下と感じるユニットです。
ホーンの裏側には、ツイータ用のローカット・フィルターがあります。ボイスコイルに直列に1.5μFの無極性アルミ電解コンデンサーが入ります。さらにボイスコイルに並列に写真の茶色の物が接続されています。何か不明なのですが、位相補正用のコイルかもしれません。ただし、極細いリード線の両端の直列抵抗を計ったら0.7Ωしかありませんでした。オシロと発振機を引っ張り出せば、インダクタンスも計れますが、面倒なのでしてません。コンデンサーの容量は、計測すると1.6μFほどでしたが、これは誤差の範囲でしょう。ただ、後の述べるように、試聴の結果、やはりフィルムに替えました。感心したのは、これらのパーツがベーク製の端子にからげてハンダ付けされている事です。その分、取り外すのに手間がかかりました。
このユニットは、手にいれた時、写真の様にウーファのエッジがほどんど原型をのこしていない状態でした。かろうじてダンパーでコーン紙は支えられており、このままでも音は出ますし、ボイスコイルも摺れていません。もちろん、このままの状態では使えません。
エッジの補修の仕方は、ウエッブでもたくさん情報があります。したがって、屋上屋を架けるような無駄はさけます。検索エンジンで「エッジ 張り替え」といったキーワードで捜してみてください。エッジの材料として、カー用品店で販売している洗車用のセーム皮を使いました。セーム皮といっても、本物の鹿皮ではなく羊の皮です。一枚1,180円で39cm×39cmのものがありました。20cmユニットなら、同心円状に切り出しても、これで充分二つ分取れます。余った物は、眼鏡拭きとかパソコンのディスプレイ拭きに使えます。昔、同じ職場にいた猟師の方が捕った鹿の皮を譲って頂き、鞣してもらった本当のセーム皮も手元にあります。ただ、洗車用の羊皮の物の方が薄く弾力性もあり、もとのウレタンに近いのではないかと思い、こちらを使いました。
美観の問題は別にして、思ったより簡単です。ただ、エッジの材質やテンションが変ることで、ユニットのQ0は変るでしょう。また、このユニットのようにコーン紙にコラゲーションがあり、積極的に分割振動を利用する設計の物は、出て来る音も多少なりと変化するでしょう。しかし、安い投資で比較的簡単に出来ますので、P-610等のように、ウレタンエッジのダメになったユニットをお持ちの人は挑戦してみると良いと思います。
最初に、このユニットでは、『アルボス《樹》/ アルボ・ペルトの世界』 (J32J20224) を聴きました。アルボ・ペルトについても、この曲についても詳しいことは知りません。長いライナーノートも付属してますが、読んでません。最近は、このように小さな文字で書かれた物を読むのが苦痛になりました。CDなど音楽ソースを発売する連中は、いつまでこうしたガキ相手の商品作りをするのでしょうか。私自身も、最近はCD等を以前よりは買わなくなりました。それは、ソース自体に魅力ある物が少ないせいもありますが、パーケージとしての商品としての魅力がないと言う事が大きいと思います。それでいて、本来のCDの規格違反のCCCDなるインチキなコピー対策商品を出すのは、本末転倒の怠慢行為です。
この曲を聴いていると、子供の頃父親の実家で、真宗の御詠歌を正座して聞かされていたのを思い出します。厳かな気分の中で、睡魔をさそってくれて、聴いていて気分が良く、私は好きです。
その前に、コーラルのFLAT-10で、同じ曲を聴いてましたが、ボリュームをそのままにしてかけました。FLAT-10に比べて、能率が低く音量は小さいのに、なにかうるさく聴こえます。一端音量を下げて聴きました。それでも、うるさい。あらためて、もう一度ボリュームを絞りました。気持の良い御詠歌のはずが、カナキリ声に聞えます。とくに、終曲のソプラノとカウンターテナーの重唱など、耳触りで聞いてられません。良く聞くと、音が濁ってウーファとツイータから別々に出ているようにも聞えます。エッジを替えたせいなのか、ネットワークが悪いのか良く分かりません。
ツイータのローカット用のコンデンサを、元のアルミ電解コンデンサからフィルムに替えてみました。随分と聞きやすくなったように思えました。あるいは、張り替えたエッジが馴染んだのか、あるいは耳が慣れてしまっただけかもしれません。私は、この手の、パーツを替えると、ケーブルを替えると音がガラリと良くなると言った根拠不明の戯言が大嫌いです。ただ、このユニットの場合はエッジの状態から分かるようにな使われ方、保管のされ方をしてきたわけです。その間、おそらく30年近い時間にアルミ電解コンデンサーが初期の性能を保持していると考える方がおかしいでしょう。ですから、耐用年数の過ぎた不良のパーツを交換したと考えてください。暇ができたら、オシロと歪率計と発振機を持ち出して、このアルミ電解コンデンサの高域特性やその歪み率などを測定したいと思います。
あらためて聴いてみると、良い音です。コーラルの 8CX-50 ほど能率は高くなさそうですが、元気な良く前に出る音です。レンジは広いと言えませんが、低い音は締って見通し良く、コンコンと出てくる感じです。マーラーのコントラバスやティンパニーの音は、小さいながら、ちゃんとした音程を持って再生してくれます。スケール感のようなものはありませんが、その前に聴いていたFLAT-10より、こうしたオフマイクな録音を聴くには気持良いと思いました。アーメリンクの声も、艶かしく再生してくれるし、後でピアノの伴奏がコツコツと鳴ってくれて、大変心地好い。 8CX-50 でも思いましたが、私のような装置と聴き方では、20cmくらいの口径の、こうした同軸ユニットというのは最適なのかもしれません。