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ナショナル EAS-20PW09SA ゲンコツ

ゲンコツの愛称で知られる20cmフルレンジ・ユニットです。

ナショナル 20PW09 の正面写真 ナショナル 20PW09 の斜め後からの写真

EAS-20PW09 の仕様

ナショナル EAS-20PW09の仕様
型番 EAS-20PW09
ボイスコイル・インピーダンス
最低共振周波数(f0) 50Hz
再生周波数帯域 f0〜15,000Hz
定格入力 3W
最大入力 8W
出力音圧レベル 94dB
等価質量 8g
Q0 0.73(50Hz)
総磁束 75,000MX
磁束密度 T 10,500G
コーン紙有効直径 166mm
質量 1.26kg

原型の旧型番8PW1が発売されたのが1954年11月、生産販売の終了が1984年とされています。30年の長きに渡って"ゲンコツ"の愛称で親しまれ、使われてきた事になります。1984年の販売定価が3,900円だそうです。後述のように複雑な作りに比しても、また当時の物価を考えても(CDが一枚3,500円でした)非常に安価で良心的な価格設定だったと思います。そうした面からも、たくさんのアマチュア自作派に親しまれ、支えてきた優良なユニットだったと言えるでしょう。自社のシステム用にフェライトマグネットを使用した廉価版(20PW49)や、エッジやマグネットを変更し、ハイコンプライアンス・広帯域化した物(20PW56)など、いくつかのバリエーションが存在するようです。

ナショナル 20PW09 のプレートの写真

いま手元にある物は、EAS-20PW09SAと型番の後に"SA"が付き、マグネットのカバーがありません。しかし、マグネットはアルニコですし、その他コーン紙やフレーム、イコライザーの形状もオリジナルのEAS-20PW09と違いがあるようには見えません。プレートの後にはカバーを固定するビス穴も空けられています。J81とスタンプされているのは、1981年1月製造という事でしょうか。

ナショナル 20PW09 の"ゲンコツ"の写真

ゲンコツの愛称は、コーン紙中央の球状の物体から来ているようです。この不思議な物体は高域の位相を補正するためのイコライザーだそうです。Lowtherという会社のユニットにも同様の物体が付けられた物・'a'series drive unitsがあります。ただし、松下と違って英国のオーディオ製品らしい立派な価格になっています。これを見ると、日本の輸入代理店があこぎなピンハネをしてきたわけでもなさそうです。そう言えば、バブル経済爛熟の頃、ターンテーブルのT社とかトーンアームのS社から日本限定販売なる物が作られていました。それを見て、日本の某大手食品会社が主力商品の化学調味料を、東南アジアでは頭が良くなると称して売っていた事を思い出しました。自分の国では相手にされないような代物でも、金満のイエローモンキーなら騙されて金を出すだろうというゲスな根性が見え見えで、不愉快でした。

このイコライザの動作については、製品カタログに詳しく解説されているそうです。残念ながら、手元にありませんので、それを元にした解説記事から引用します(小原由夫 「20PW09を使ってバスレフ型SPシステムを作る」1984年11月 /ラジオ技術社編 『スピーカシステム製作集』より)。

20PW09のイコライザー特性図

この周波数音圧グラフを見ると、6KHz以上の高域においてイコライザーが劇的に効果を発起していますが、それならば、こうした物を持たない他のユニットはどうなるのかと言う疑問がわきます。ただ、松下は後にリニアフェイズのシステムに力を入れたように、位相の問題をとりわけ重視していたのかもしれません。

同様に、変ったコラゲーションを持ったコーン紙など、このユニットの特徴についても以下、小原さんの記事を引用します。いささかヨイショが過ぎるようにも思えますが、30年に渡って供給されたこのユニットの生産中止が伝えられた直後の記事で、その分惜別の念のこもったものとして、多少割り引いてお読み下さい。

メインコーンは楕円コラゲーションを用い、中央部より周辺に至る間の成型圧力を変えて、機械損失を変化させ、周辺部はコンプライアンスを大きくなるよう特に薄くすきあげ、大振幅時にも非直線ひずみを極少にしています。さらにその効果を高めるために裏面より化学処理を行い、とくに中音域以上でその特性の乱れが少なくなり、平坦な周波数特性を得ています。

高音コーンはとくにヤング率の大きな繊維を選び最高の形状に成型し、性能を十分生かすために一切の染色を行っていません。

また、大きな体積のマグネットと高純度軟鋼を用いたヨークにより強力な磁気回路を形成し、さらに銅被膜アルミボイスコイルと軽量で堅牢なコーンにより過渡特性にすぐれ、また高能率です。

20PW09のサブコーン

面白いなと思うのは、サブコーンの形状です。他のダブルコーンのユニットで良くあるのは、メガホンの様な円錐状の物です。あれは、見るからに特定の周波数で共振してサワサワ鳴るような気がして好きではありませんでした。実際に海外のユニットでは、そうした形状のサブコーンの裏側に発砲ウレタンを張ったり、フェルトをコーンの端に付けたりしてダンプしている物もあります。このユニットでは、サブコーンの径自体が小さく、外周部で折り返してメインコーンに接着してあります。後で述べるように、このユニットの自然な高域の鳴り方はこうした工夫によるのでしょう。

この"ゲンコツ"型のイコライザーは、Panasonicブランドのカー・オーディオ用のユニットに復活しているようです。(2003年7月10日)

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聴いてみて

レンジの広くない音です。ただし、その分嫌な音もだしません。それにリチャード・アレンnew golden 8tのように、ある帯域から上の音をスッパリ切り捨てたような貧相な音でもありません。少し重心の低い重い感じの音ですが、バッフルの廻りにへばり付くような嫌な音ではありません。『オッター シューベルト歌曲集』(UCCG3476)のような比較的新しい声楽のディスクを再生すると、伴奏のピアノの音がボンついたような汚い音になりますが、これは平板バッフルに真空管アンプという制動の甘い条件で、古いユニットを鳴らす場合は仕方のないことです。逆に、フィッシャーディースカウのディスクのような古い同時代の録音を再生すると、小さい音像でダイナミックレンジが広がった様に聴えます。初めは音が痩せたように感じましたが、聴き進むにつれて、こちらがより自然な音で、50年近く前のコンサートをリアルタイムで放送を聴いているような錯覚すら覚えて快適です。

『アルボス《樹》/ アルボ・ペルトの世界』 (J32J20224) を再生してみました。ユニットによっては、汚い金切声に聞こえる終曲のソプラノやテノールが澄んだ美しい声で再生されます。ボリュームを絞る必要はありません。これは驚きでした。もしかすると、これがあの奇妙なイコライザによる中高域の位相合わせの成果なのでしょうか。この曲の再生に関してはこれまで、試聴したユニットの中で一番美しく鳴ってくれます。アーメリンクの声は、艶やかと言う感じではありませんが、柔らかく落ち着いた音で小さな音像を結びます。現代的な意味での"HiFi"(これも死語でしょうか)な音ではありません。コーラルの10CX-50FLAT-10のように、綺麗に広がり上手く誤魔化してくれる音でもありません。むしろ、再生音である事をいつも意識させるような音とも言えます。しかし、それは昔モジュラー型のステレオで聴いたアンセルメ・スイスロマンド管弦楽団の輝かしいきらびやかな音だったり、テレビのスピーカーから流れた「ひょっこりひょうたん島」のテーマソングと言った懐かしくも心地好い思い出につながる音です。考えてみれば、私を含め多くの平均的な日本人は、オーケストラの音楽などコンサートで聴くよりはるかに多くラジオやテレビやステレオなどの再生音として聴いてきた訳です。そうした私たちが、安心して聴くことの出来る音と言えるでしょうか。私は、好きです。

余談になりますが、私はかつてのLPレコードなどのアナログディスクには、余程特殊なものを除き10KHz以上及び100Hz以下の音がまともに刻まれていたとは思えません。詳しくは述べませんが、LPレコードの再生の原理から電卓を片手に計算すれば誰でもそう思うでしょう。たとえRIAA補正をかけていても、40Hzくらいの音をまともに刻んでもピックアップが正しくそれをなぞるとも思えません。下手をすると音飛びを起すでしょうし、そうでなくても制動が効かず、おかしな変調を発生させるでしょう。また、たとえば15KHzくらいの音溝など一回トレースすればすり減って、おそらく次からは再生不能になるでしょう。何をヌカスとお怒りの人は、LPレコードの線速度がもっとも条件の良い最外周で 、40HzのRIAA補正値が dB、これにLPの片面の再生時間を15分として、これくらいの低域の音溝がどのような状態か計算してみてください。これをフラフラのアームの先についたピックアップで、正確にトレースするのは神業のようなものと納得されるでしょう。

それでも、かつてのLPレコードはきらびやかに美しく音楽を再生してくれていました。DECAレーベルのエルネスト・アンセルメ指揮、スイス・ロマンド管弦楽団の一連のディスクの甘く艶やかな音は、今でも私の記憶の中にある最も美しい再生音の一つです。その内のいくつかはCDで復刻された物を求めましたが、かつての興は蘇りませんでした。


このユニットに限りませんが、この時代のユニットは大きめの密閉箱か、出来れば背面に負荷のかからない平面バッフルか後面開放箱に入れて聴くべきでしょう。バックロードホーンとかバスレフと言ったインチキな方法で無理に低音域を増強するシステムに入れるべきではありません。逆にトーンコントロールのあるプリアンプをお使いなら、無駄な高音域、低音域を絞って聴けば、新しい録音のディジタルソースも心地好く再生してくれと思います。販売期間が長かったせいか、中古市場でもオークションでも比較的多く出回り、特に未開封未使用品といった物でない限り値段も常識的な物です。機会があれば、手に入れてみて決して損はないでしょう。

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